フィジビリティスタディ

 土岐はもう一度インフレの効果を確認した。5%のインフレ率では総収入は一千億円程度にしかならず、赤字基調は変わらない。このプロジェクトを黒字化させるためには10%程度のインフレ率が必要であることが確認できた。しかし、10%のインフレ率が30年以上にもわたって続く経済がどのようなものであるのか、土岐には想像もできなかった。
 午後から、報告書の清書にとりかかることにして、午前中はとりあえず図表の作成に専念した。インフレ率0%、5%、10%の三つのケースについて、図と表が完成したのは、十一時をかなり回った頃だった。一息ついていると、シュトゥーバが突然作業所に入ってきた。ほかのメンバーがいないのが意外のようで、部屋の中を尖った目で見回している。丸山はにこやかに挨拶したが、シュトゥーバはにこりともしなかった。いきなり土岐の隣に椅子を引き寄せて、
「財務分析の状況を説明してくれ」
と言う。土岐は、いまできたばかりの折れ線グラフを見せて、3つのケースについて簡単に訥々と説明した。シュトゥーバは半跏趺坐の弥勒菩薩のように細長い片足を組み、右手の人差し指を頬に当て、じっと聞き入っていた。土岐の英語が分からなくなると、土岐の目をじっと見る。そのつど、土岐は言い直した。
 土岐の説明が終わると、首を左右に振りながら聞き取りやすい英語で話し始めた。