フィジビリティスタディ

「それから・・・きのうのことですが、西原さんを批判したのはまずかったですね。あのひとには珍しく、反論しなかったので、たぶん土岐さんの言ったことが正しいんだろうとは思いますけど、・・・プライドの高い人みたいですからね。・・・けさも、土岐さんが南田さんと駅に行っていて、いないのを承知でここに寄ってますから、そうとうきのうの一件でカチンと来ていたんじゃないでしょうか。意趣返しがないといいんですけどね。ああいう、自尊心の高い人が自尊心を傷つけられたとき、どのくらいはらわたが煮えくりかえっているのか、ぼくみたいに自尊心のかけらもないような人間にはとても図り知ることができないです。・・・ぼくの会社でもあったことなんですが、部署の飲み会で部下が上司を酔った勢いでからかったら、その上司がそのことを根に持って、その部下を左遷した。その部下は、まさか飲み会で言ったことで自分が左遷されたとは思わないから、長い間どうして自分が左遷されたのか、配所の月を眺めながら、理由が分からなかったみたいです」
 丸山に心配してもらったこともあって、土岐はとりあえず、インフレ率10%のケースと5%のケースを想定して、運賃収入を増加させてみた。5%の場合には、30年後でも、物価指数は4倍半の450程度にしかならない。インフレ率10%として、5年後から年率10%で運賃収入を増加させていくと、総額で約二千八百億円になった。これに対してコスト総額は、メンテナンス費用とオペレーティング費用が物価スライドで増加するため、約二千九百億円となり、プロジェクトの価値はマイナス百億円となる。土岐は、その収支尻を丸山に見せてみた。
「わずかの赤字ですか。万々歳ですね。これにしましょう、あしたのプレゼンは。みんなハッピーです」
と丸山は本当にうれしそうに小躍りした。彼が全身で嬉しさを表現しているのが分かった。彼も誰かから圧力を掛けられているのかもしれない。それは、王谷のみならず、東京本社の彼の直属の上司であるかもしれない。彼の喜びが土岐にも伝わり、彼の晴れやかな情感が伝染してきた。不覚にも口元が自然に綻んでくるのを土岐は抑え切れなかった。