フィジビリティスタディ

「かれら、学校はないんですかね」
と土岐が素朴な疑問を言うと、
「一応義務教育はあるんですけどね、教科書とか制服とか靴とか文房具の買えない連中がいて、・・・ほんとうは、この国の政府が無償でそういったものを支給すべきなんでしょうけどね・・・なんせ、税収がないから、財源がない。教科書と制服を無償にするために税金を徴収するとすれば、それらを有償にするのと同じことになる。・・・それに小学校に行かせるよりも小銭を稼がせた方がいいと思う親が多い。ちょっと、たとえは良くないけれど、日本の三流大学なんか、アルバイトばかりで、勉強なんかしていない学生が多いでしょ。もともと勉強が嫌いで、勉強なんかするつもりもないんだろうけど・・・あれは、
『大学に入ったら学費は払ってやるが、小遣いは自分で稼げ』
と言う親が多いからなんですよ。そういう学生たちが日本の最低賃金層を形成し、日本の経済構造に組み込まれている。うちの会社の食品関連の飲食の子会社なんか、損益計算の計画を立てる段階で、最低賃金の学生アルバイトを予算化していますからね。ここの子どもたちもそうで、ちょっとした雑用はみんな子どもたちの労働に依存している。それがこの国の最低賃金層を形成している。ここにたむろしている子どもたちはその最低賃金労働にありつけなかった連中で・・・善悪の問題じゃないんです。そういう最低賃金構造になっているんですよ」
 南田の話に土岐は自分自身が学生時代も大学院生時代もアルバイトに明け暮れていたことを思い出した。土岐の場合は小遣いを稼ぐのが目的ではなかった。しかし、学友たちのほとんどは遊ぶ金が目的でアルバイトをしていた。大教室で遊びの話に夢中になる学友たちを苦々しい思いでうとましく眺めていたときのことがよみがえってきた。そういう不平を母に漏らすと、母は、
「上見れば、星、星、星の星だらけ、下見て暮せ、星の気もなし」
と言って慰めてくれた。たしかに、土岐は大学に進学していることを感謝しなければならないと自分に言い聞かせた。それでも、日々接する学友の遊興と生活のためにアルバイトに追われる自分の身の上とをどうしても見比べて、鬱々としていた。
「ちょっと、こっちへ」
と南田は踏切の黒と黄色のツートンカラーの遮断機の下に立った。
「あっちが、始発駅。あそこから南路線と北路線と内陸路線が出ます」