フィジビリティスタディ

と咎めるように言う丸山との間に一筋の亀裂が走ったのを土岐は感じた。しかし、丸山を責める気にはならない。丸山は組織の意向に殉じようとしているだけのことだ。南田にもそのきらいがなくはない。しかし王谷や白石や西原は明らかに自分のキャリア・アップしか念頭にない。日本国民の税金が無駄に使われ、この発展途上国の国民が過剰な公共投資によって将来の債務返還に苦しむことはかれらの眼中にはない。
 ホテルに帰ってすぐ、土岐は報告メールを送信した。
 @土岐明調査報告書・現地第4日目、終日現地作業所にて財務報告の作成にとりかかりました。現在の情報では電化プロジェクトのフィージビリティ・スタディでは、大幅な赤字が見込まれます。このままであれば、恐らく、プロジェクトにODAはつかないものと予想されます。西原、白石、南田は国立大学マフィアだとの丸山からの情報がありました。この三人に王谷を加えた四名は、このプロジェクトにODAが付くことにより、キャリアの上でそれなりの利益があるものと考えられます。夕方6時より、扶桑物産の現地事務所においてパーティーがありました。大使館の白石一等書記官と西原コマーシャルアタッシェとプロジェクトの黒字化について議論しました。西原の議論の誤りを指摘しました。以上@
 メールを送信した後、このプロジェクトをつぶすことに土岐はヒロイックな心情を抱いている自分に気付いた。
(九十万円は当然の報酬だ。西原にしても白石にしても王谷にしても、これまですでに十分な報酬を得ている。九十万円という金額は、彼らにとっては大した額ではないかも知れないが、母にとっては失明するかどうかという額だ)
と奮い立たせるように自分に言い聞かせた。

八 現地第5日目

 翌朝の7時ごろ、丸山からホテルの内線で南田が土岐を迎えに来るという連絡があった。8時ごろ、南田が真新しい乗用車でホテルに迎えに来た。
「国鉄の作業所に送り届ける途中で見せたいものがあります」
と言う。土岐は彼の運転する欧州車に同乗した。毎朝乗っている現地タクシーとはまったく別の乗り物だった。
 車は始発駅の近くの踏み切りの手前のアスファルトの途切れた路肩に駐車した。上半身裸のやせ細った少年たちが集まってきた。南田は下車するとポケットから小銭をつかみ出し、車の後方にばら撒いた。少年たちが一斉に地面にはいつくばった。