フィジビリティスタディ

「ようは、フィージビリティ・スタディで採算があうという結論を出せばいいわけですね。あとは、プロジェクトが動き始めて、何年か後に、どうも計画通りに行かなくて、償還を繰り延べて、いずれ累積債務処理で、十年か二十年かのちに無償援助の債務免除の対象となればいいわけですね。そのころには、われわれはこのプロジェクトとはかかわりのない部署にいるわけだから、・・・わしなんかどうせ定年だし、なんの問題もない。だいたい、寿命があと十年もあるかどうか・・・」
と語る王谷の西原と白石を交互に見る目が、好意に綻んでいる。土岐や丸山に対しては一度も見せたことのない表情だった。
 西原は不満げにボールペンの頭で左手の親指の爪をせわしなく叩いている。その所作を白石がいらだたしそうに注視している。
「まあ、そういうことですね。実際、計画通りに立ち行かないプロジェクトは山ほどある。われわれは公共の利益のためにことを運んでいるのであって、建前上、やっていること自体が善なんですから・・・」
と白石が結んだ。
 そこで、丸山がじれたように立ち上がった。
「さっ、結論が出たところで、パアッと行きましょう、パアッと!」
 王谷もおもむろに立ち上がり、後ろに続く土岐に、ななめ目線で言い捨てた。
「まあ、そういうことだから・・・」
 その言葉を丸山がすかさず明るくフォローした。
「土岐さん、そういうことで、よろしくお願いします」
 そう言う丸山の所作に切ないものを感じた。かつて、土岐が大学四年生のとき、就職するかどうか迷った理由を丸山が体現していた。丸山の人間性がどうであれ、彼は組織の論理に従わざるを得ない。土岐も、このプロジェクトに参加した以上、参加している期間中は、プロジェクトの論理に従わざるを得ない状況にある。
 土岐はパーティールームに戻ってから、しくしくと痛む下腹をだましながら、飲食した。途中で、シュトゥーバが財務分析の様子を聞いてきたので、夕方、丸山に説明した内容だけを伝えた。彼は目を落とし、口をつけていないワイングラスを持ったまま、黙って幾度も首を左右に振った。
「予想していました。適正な報告がなされることを期待しています。真実こそが最高の善です」
と言っただけで、それ以上のことは話さなかった。
 シュトゥーバと入れ替わるようにして、西原がワイングラス片手に近寄ってきた。