と言いながら土岐は西原が意図的に現在のディーゼル列車の消費者余剰を除外したのではないかと思った。現在発生している消費者余剰を除外すれば、その分電化プロジェクトによる消費者余剰が大きくなる。それによってプロジェクトの採算性が高まる。しかし、西原の説明が意図的に現行の消費者余剰を無視したものでないことは、西原の態度で理解できた。西原は不快感のこもった視線を土岐に投げてきた。
丸山は一瞬、土岐の顔を、
(一体、なにを言いだすのだ)
というような目つきで睨んだ。それから、王谷と西原の両者をおろおろしたような目線で見比べている。
「でも、電化すればダイヤは正確になるし、ドアも完全に車掌が開閉できるようになるので、現在の無賃乗車が減って、・・・」
と言う丸山の言質の誤りを土岐は指摘しかけた。
(無賃乗車の人間は大きな消費者余剰を得ている。その人間が運賃を支払うようになっても、運賃収入と無賃乗車の時より少なくなった消費者余剰の合計は以前と同じ大きさになる。つまり、無賃乗車がなくなるということは電化によって社会的な余剰が増加することを意味しない。無賃乗車の人間が支払う運賃は、無賃乗車の人間にとってはマイナスだが、受取る国鉄にとってはプラスだから、社会全体では両者を合計すればプラスマイナスゼロになる)
土岐はここで怯んだら母の白内障の手術代が奪われるという思いだった。しかし、丸山の困り切ったような顔色を見て、出かけた言葉を飲み込んだ。
白石は土岐の話を無視して、西原にコメントを浴びせた。
「いずれにしても、だれが六百億円を払うかが問題だ。先進国であれば、政府が税金から工面して、赤字分を補助金という形で補填するということで、そのプロジェクトにゴーサインがでるが、この国のような最貧発展途上国にそんな担税能力があるかどうか。円借款のODAである以上、償還が前提となる。償還の可能性がまったくないプロジェクトにゴーサインは出しづらい」
そこで王谷がタバコの煙を悠然と吐き出しながら口を挟んだ。
丸山は一瞬、土岐の顔を、
(一体、なにを言いだすのだ)
というような目つきで睨んだ。それから、王谷と西原の両者をおろおろしたような目線で見比べている。
「でも、電化すればダイヤは正確になるし、ドアも完全に車掌が開閉できるようになるので、現在の無賃乗車が減って、・・・」
と言う丸山の言質の誤りを土岐は指摘しかけた。
(無賃乗車の人間は大きな消費者余剰を得ている。その人間が運賃を支払うようになっても、運賃収入と無賃乗車の時より少なくなった消費者余剰の合計は以前と同じ大きさになる。つまり、無賃乗車がなくなるということは電化によって社会的な余剰が増加することを意味しない。無賃乗車の人間が支払う運賃は、無賃乗車の人間にとってはマイナスだが、受取る国鉄にとってはプラスだから、社会全体では両者を合計すればプラスマイナスゼロになる)
土岐はここで怯んだら母の白内障の手術代が奪われるという思いだった。しかし、丸山の困り切ったような顔色を見て、出かけた言葉を飲み込んだ。
白石は土岐の話を無視して、西原にコメントを浴びせた。
「いずれにしても、だれが六百億円を払うかが問題だ。先進国であれば、政府が税金から工面して、赤字分を補助金という形で補填するということで、そのプロジェクトにゴーサインがでるが、この国のような最貧発展途上国にそんな担税能力があるかどうか。円借款のODAである以上、償還が前提となる。償還の可能性がまったくないプロジェクトにゴーサインは出しづらい」
そこで王谷がタバコの煙を悠然と吐き出しながら口を挟んだ。


