フィジビリティスタディ

 公共プロジェクトの社会的評価ではよく行われる考え方を右の眉を吊り上げながら西原は得意げに解説した。しかし、丸山は理解していないようだった。腕を組んで、首をかしげている。西原は丸山の前に図をずらして、苛立たしそうに説明を繰り返した。
「・・・だって、定価が1円だというのに、自分はそれ以上の評価をしていても、それ以上払う人はいないでしょ。かりに丸山君が2円の評価をしているのに、実際には定価が1円で1円しか払わなかったとしたら、差額の1円は君の利益になるでしょ。一般的に定価販売であれば、定価以下の評価しかしない人は絶対に買わないわけだから、実際購入する人は、定価以上の評価をしているということになるでしょ。その評価の上回った金額を消費者余剰と言うんだよ。一般的に金持ちやその商品についてのマニアほど、消費者余剰は大きくなる」
 丸山は分かったような、まだ分かっていないような曖昧な表情で、唇をすこし尖らせて首を数回縦に振った。西原は丸山に怒ったようにして言う。
「君は、百円の評価しかしていない商品が、二百円で売られていたら買うか?」
「いいえ」
と丸山はどぎまぎして恐縮したように答える。
「それじゃ、二百円の評価をしている商品が、百円で売られていたら買うか」
「まあ、買うでしょうね」
「そのとき、二百円払うか?」
「いあや、百円しか払わないですよ。だって、定価が百円なんでしょ」
「そうだろ。そのときの差額の百円が消費者の利益で、消費者余剰と言うんだ。どんなものであれ、定価販売では買い手が何かを買う時には必ずこの余剰が発生している」
と西原は興奮して少し早口になる。西原はさらに別の紙に同じ縦軸と横軸を描き、先刻の需要曲線よりも傾きの急な右下がりの図形を示した。
「・・・かりに、並走しているバス路線がエネルギー効率が悪いというので、電車開通と同時に廃止されたとすると、電車乗車は必需品的な性格を持つので、需要曲線はそうでない場合と比較して立ってくる。つまり、価格に関して非弾力的になる」
といいながら、西原は丸山の顔を見る。丸山は西原の描いたグラフに眼を落したままゆっくりと首を左右に振る。