土岐は、男子トイレ手前のウオータークーラーで一人の男が水を飲むのを左目で見ながら、南側のスポーツセンターの体育館に向かった。体育館のエレベータで3階で降り、北側の窓から北隣のトラックを見下ろすと、犯行現場は観客席が庇になっていて見えない。
 土岐は殺害現場を一通り見聞してタクシーで喫茶好奇に戻った。スポーツセンターから十分ほどだった。それから、喫茶好奇から真田の主張するルート検証した。
 真田は宇多との接見で検察のシナリオを否認している。その主張では、喫茶好奇から出たあと、上野公園のバス停から都バスに乗っている。バス停は喫茶好奇から徒歩五分ほどの不忍池のほとりにある。上野駅方面とは反対側だ。路地を見渡しても、こちら方向には監視カメラも防犯カメラもない。不忍池の桜並木にある上野公園のバス停に時刻表がある。平日午前九時台は二一分発と五二分発の二本しかない。九時ごろ喫茶好奇を出たとすれば、二一分発に真田は乗車したはずだ。上野公園のバス停はターミナルになっているが、駐車場もなく、Uターンもできない。始発バスは上野公園のバス停から、すぐ池之端方向には向かわず、中央通りを御徒町方向に右折し、上野広小路の交差点でも右折し、さらに湯島近くの交差点で不忍通りを右折して不忍池に戻ってくる。
 始発の上野公園で乗車せずに、始発の停留所の向かいにある池之端1丁目の停留所で乗車すれば、5分程度は節約できる。真田は乗車した上野公園から降車した隅田公園まで三十分ほどで移動している。隅田公園のバス停の時刻表で確認すると、真田の降車したバスは時刻表では午前九時四六分に到着予定になっている。真田は隅田公園のバス停で下車し、言問橋西詰の交差点には向かわずに、言問通りを、殺人現場とは反対方向の浅草方向に少し戻り、ラーメン屋の前の横断歩道で言問通りを渡り、十時ごろに路地奥の小さなビルに入り、その二階でボウガンの試し打ちをしている。その間の移動経路に監視カメラはない。