「・・・設定は三十日、一か月ぐらいです。・・・お支払いは現金ですか?」
「現金で。・・・録画媒体はハードディスクですか?」と言いながら、土岐はズボンのポケットの中の小銭をまさぐる。
「・・・そうです」と言いながら、店員は土岐が出した小銭を一枚ずつ確認する。
「一か月分の録画はどっかに保存しておくんですか?」
「いえ。順次上書きしてゆきます」と店員はつまらなそうに言う。それだけ聞くと土岐はコンビニを出た。さらに北上した。言問橋西詰の交差点手前で十時二十分に画像を記録していた外資系のガソリンスタンドでも同じ質問をした。同じような返答があった。ただ、店内のカメラは強盗の顔を特定するのが目的で、店外のカメラは強盗の逃走車やガソリン代を踏み倒して逃走する車両を特定するのが目的だ、という説明があった。証拠画像は店外だ。
 国道6号線の通称江戸通りはそこで終わる。さらに北上した。最後に尋ねた区立のスポーツセンターの管理棟ビルでは、監視カメラ設置の目的は夜間の痴漢や暴漢を捉えるため、とのことだった。画質を高く設定してあるため、一週間分しか録画されていないという。
 犯行時刻は午前十時から十一時ごろ。犯行場所はスポーツセンターのアンツーカーのトラック脇の男子トイレの近く。犯行現場のアンツーカーのトラックはスポーツセンターの体育館ビルと四面ある屋外テニスコートの間にあった。当日のトラック利用者はいなかった。
 殺害現場近くの男子トイレは、平屋の予約管理事務室の反対側の廊下奥にある。ドアが事務室通路側とトラック側の両方で開放されていた。老齢の管理棟ビルの事務員の説明によると、男子トイレはトラック側からも事務室側からも利用しやすいように、換気の目的もあって、両側のドアを常に開放している。
 一周二百メートルのトラックをのぞく。トイレの真上は観客席。アンツーカーのトラックの向こう側は隅田川の土手になっている。トラック全体が三メートルほどの浅黄色のコンクリート塀に囲まれている。外から見えるのは観客席だけ。トラックは見えにくい。南隣に5階建ての体育館ビル。見上げると窓が多いのが目につく。窓際に人の気配は感じられない。