家事が一段落したところで着信メールをチェックした。亜衣子からのメールはなかった。落胆もしなかったが、多少期待はしていたので少し気分が暗くなった。窓の合わせ硝子の向こうで冬の頼りなげな陽が落ちかかっていた。メーラーをオンにしたま迄、着信のチャイムが鳴るたびにディスプレイを見たがメールマガジンやスパムばかりだった。メールは五分か十分おきに着信してきたが関係のないものばかりだった。冬の薄日がとっぷりと暮れた。部屋の明かりをつけていないので、パソコンのディスプレイがイルミネーションのようにやけに明るく見えてきた。一定の時間がたつとセーブモードに切り替わり画面が暗くなる。その都度エンターキーをたたいて画面を復帰させた。暫くたってメールを見ると英文も交えて十通ばかりが溜まっていた。メールマガジンの件名の間に@Re・土岐@という返信メールが混ざっていた。そのメールを急いであけてみた。
@お誘い有り難う御座います。あすの日曜日、午前10時ごろ自宅迄、スポーツカーで迎えに来て下さい。住所は白金台4丁目です@
 スポーツカーは日光街道沿いのホンダ系列のレンターカー会社で借りることにした。翌朝、スポーツカーをレンタカー会社で探すことにした。近くの日光街道沿いにホンダ系列のレンタカー会社があった。運転免許証を持参して9時ごろ契約を済ませた。カーナビで目的地を『白金台四丁目』に設定した。所要時間は30分と表示された。そこから亜衣子の自宅近く迄の所要時間は日光街道経由で30分足らずだった。人通りが殆どなかった。高速脇の道路沿いに停車して携帯電話で亜衣子を呼び出した。すぐには出なかったが、
「土岐です。近く迄来たけど」
と伝えると突き抜けるような明るい声で、
「いまどこ?」
という返事があった。聞いたことのないよそ行きの声だった。
「高速脇の道路」
と少し緊張気味に土岐が答えると、
「二三分で行くわ」
と言って電話が切れた。それから5分位してダウンジャケットにベージュの花柄の総レースのワンピースの亜衣子が現れた。ネイビーカラーのレース素材のバッグを手にしていた。助手席に乗り込むと、
「暖冬みたい。あったかいみたい」