きっと二人でまたここに来れるはずだ。
根拠はある。琴音と約束したからだ。最後の最期まで希望は捨てない。
琴音との日々は夢のように過ぎ去り、ついに十一月八日を迎えた。
最期の日。
制服を着た二人は、この日もバスに揺られていた。今日だけは、普通の恋人同士として過ごすことができない。
僕と琴音は学校へ行くふりをして、約束のあの丘へ向かっている。お互い学校をサボるという経験が初めであり、警察に補導されないか無駄にヒヤヒヤした。
それでも、こうして電車を乗り継ぎ無事にバスに乗ることができた。
バスが目的のバス停に停まる。二人はなにも言わずに降りた。
快晴の空の下には田んぼが広がり、家がまばらにある。昔とあまり変わっていない、懐かしい風景だ。
「久しぶりに帰ったきたな」
「いい町だね」
琴音は穏やかに、緑が豊かな風景を見渡す。制服の胸元から出したハート型の白い石がついたネックレスは、光を反射してキラキラと光っている。
今日も付けてきてくれて、本当にうれしい。琴音の命の光もこのくらい輝いてくれたら、もっとうれしい。
ゆっくりこの町を、琴音と楽しみたかった。だが、時間がそれを許してくれなさそうだ。
今は晴れているが、予報では天気は大きく崩れるらしい。スマホで時間を確認すると、既に十一時を過ぎていた。
「ここから歩いて三十分くらいで着くよ。行こうか」
「う、うん」
琴音から緊張が伝わってくる。
「大丈夫だよ」
なにが大丈夫なのか、自分でもよくわらない。それでも、最後の最期まで幸せでいて欲しいため、琴音の緊張や恐怖を少しでも取り除きたかった。
「ありがとう」
琴音はにっこりと笑った。
その時だ。僕は思い出した。
小学四年生の時、こことは違うバス停のベンチに座りながら泣いている、知らない女の子に遭ったことがあった。
おそらく中学生くらいだった気がする。だが、泣いている顔を見るのは失礼だと思い、あまり見なかったためはっきりとは覚えていない。
その女の子が心配になり声をかけたが、泣いているばかりでなにも答えてくれなかった。それでも放っておけず、僕も隣に座ったのだ。
座ったは良いものの、気の利いた言葉が浮かばなかった。どうしたら良いかわからず、ただ泣いているその子のそばにいた。
しばらくすると、その子は泣き止んだ。そして、僕を見て言った。
『ずっと、そばにいてくれてありがとう』
女の子は満面の笑みを浮かべていたのだ。その顔があまりにも綺麗すぎて直視できず、目を逸らしてしまった。
バスがこちらに向かってきていた。
この状況を誰かに見られることが急に恥ずかしくなり、僕は逃げるようにその場を立ち去った。
女の子はきっとバスに乗れただろう。
琴音が初めて僕に笑顔を見せた日、なぜ既視感があったかわかった。あの女の子の笑顔と重なったからだ。