その後、土屋さんに会うかどうか迷っていたら、その場で那珂に携帯電話を没収され、返してもらえず、挙句の果てに私に成りすまして返信し、約束を取り付けられてしまった。相手が相手だけにキャンセルするのもおこがましいような気がして、結局、また会うことになってしまったのだった。
「美奈さん、お待たせしました」
「いえ、ぜ、全然、待っていないので、だ、大丈夫です」
さらっと名前を呼ぶチャラさ。そして、今日も今日とて幽霊の数が多い。怖い。逃げ出したい。しかも幽霊1体増えてる。なにこれ。登録者が100万人いて10体憑いていたんだから、その法則でいくと、登録者110万人にでもなったのだろうか。はは。笑えない。
「僕、最近、行ってみたいお店があって、そこ予約してるんです。大丈夫ですよね?」
「は、はい。是非」
本当なら2mは離れて歩きたいのをグッと堪えて隣を歩く。今日は休日なので相手もカジュアルな服装だ。やはり服のセンスが良い。ブランド物は分からないけれど、ネックレスにはブランドロゴだと思われる物があしらわれていた。
「ちょっと歩くんですけど、美奈さん、歩くのは大丈夫ですか?」
「問題、ない、です!」
歩いている最中も幽霊は、土屋さんの周りで静かに蠢いている。
「今日は冷え込みますね」
「そうですね。最近は寒いですね」
何気ない会話も率先して振ってくれる。気づかいのできる人だ。MyTuberは自由奔放で破天荒だと勝手に思い込んでいたけど、人それぞれなんだなと思った。幽霊が憑いていることを伝えた方がいいかどうか、悩みながらも、他愛もない会話をする。
「美奈さん、着きました」
「あ、はい」
そうこうしているうちに、目的地に到着したようだ。そこはお洒落な喫茶店のような佇まいだった。
「おかえりなさいませ、お嬢様・お坊ちゃま」
土屋さんが予約した時間にあわせてなのか執事が入口で待っていて、扉を開けてくれた。若くてスラっとして高身長の眼鏡イケメンが、席まで案内してくれる。注意事項を色々と説明してくれた後、土屋さんは手際よく、メニューを注文してくれた。
「初めてきました、執事喫茶な、なんですね」
「アフタヌーンティーがすごく美味しいって評判で、来てみたかったんです。でも、僕みたいな男一人じゃ不安で」
貴方みたいな可愛い顔の人、一人で来ても違和感ないよ。そして、ほぼ初対面の人を執事喫茶に誘うは流石Mytuberだ。
しばらくして、お目当てのアフタヌーンティーを執事が運んできた。最初は執事喫茶の世界観に戸惑っていたが、慣れてきて落ち着いた豪華な雰囲気を楽しめるようになっていた。可愛くて美味しそうな食べ物に、豪華絢爛の食器。本当に自分がお姫様のような気分になる。
「わぁ」
思わず声が漏れて、ハッと前を見て現実に戻る。本来なら憑いている本人の周辺から離れない1体の幽霊が、私の目の前にいた。ビックリした感情を一生懸命押し殺す。
「気にいってもらえたようで、良かったです」
「……は、い。とっても」
そんなに微笑ましいなぁって顔しないで。幽霊のせいで何だかサイコパスに見えるよ。
「改めて、先日は助けていただいてありがとうございました。お礼と言っては何ですが、今日は僕が払うので好きに食べてください」
「あ、ありがとうございます」
幽霊はこちらから何かしない限りは、襲ったりはしないはずだ。このままやり過ごせば大丈夫。大丈夫。大きく深呼吸をして、何か食べようと手を伸ばしてふと止まった。アフタヌーンティーなんて初めてだ。3段になっているこの可愛らしい食器のどこから食べるべきなのか……。ヤバい。教養の無さがバレる。
「下から食べるのが良いみたいですよ」
察していただいて本当に有難い。普通の家庭で生まれ育ったが為に。ちょっと、勉強しよう。これくらいは社会に出てからも役に立つ……はず。
「すいません、何か」
「いえ、僕、実はちょっと勉強してきたんです」
小声でいって照れくさそうにはにかむ。こういうところが、ファンを増やす部分なのだろう。
あれ? おかしいな。こっちに寄ってきた幽霊が、彼のもとに帰ろうとしない。どうしてだろう。痴漢の時もそうだったが、この幽霊たちは土屋さんに酷く執着しているようだ。
「ちょっと……」
「――ホントだ」
周りが少しざわつく音が聞こえた。登録者が100万人という重みを実感する。それと同時に幽霊のうちの2つが彼の元から飛び出し、噂をしている人間の周りをグルグルと回る。まずい。
「あのっ」
私が口を開いた途端、幽霊がすぐさま戻ってきた。なんだよ、敵意丸出しだな。私が視えている事を幽霊たちはおそらく気付いているのだろう。
「今日、本当に有難いんですけど、私と2人きりで、大丈夫だったんですか?」
土屋さんはアフタヌーンティースタンドの一番下の段にあるサンドイッチを手に取り、美味しそうに頬張りながら言う。
「あまり気にしないで下さい。僕は自分のやりたいように生きたいので」
サンドイッチがお気に召したのか満足げな顔をする。何事も目標を持っている人の言葉は真っ直ぐで素敵だ。そんな人にこんなに幽霊がとり憑いているのだ。今は体調に変化は無くても、いずれ不幸な結果になる。しかも執着心の強い幽霊たちは、彼の周囲を不幸にしているのではないだろうか。だが、私が視えると告白したら、土屋さんの動画のネタにされるのではというほんの少しの不信感で何も言えなかった。
「しっかりしていて凄いですね」
「美奈さんの方が凄いですよ。僕の事助けてくれましたから」
あれは不可抗力だが、何となく言いづらいので訂正しないでおこう。私は手持ち無沙汰になって、微笑んだ後、手元の紅茶をすすった。サンドイッチもマジ美味しい。
「美奈さん、お待たせしました」
「いえ、ぜ、全然、待っていないので、だ、大丈夫です」
さらっと名前を呼ぶチャラさ。そして、今日も今日とて幽霊の数が多い。怖い。逃げ出したい。しかも幽霊1体増えてる。なにこれ。登録者が100万人いて10体憑いていたんだから、その法則でいくと、登録者110万人にでもなったのだろうか。はは。笑えない。
「僕、最近、行ってみたいお店があって、そこ予約してるんです。大丈夫ですよね?」
「は、はい。是非」
本当なら2mは離れて歩きたいのをグッと堪えて隣を歩く。今日は休日なので相手もカジュアルな服装だ。やはり服のセンスが良い。ブランド物は分からないけれど、ネックレスにはブランドロゴだと思われる物があしらわれていた。
「ちょっと歩くんですけど、美奈さん、歩くのは大丈夫ですか?」
「問題、ない、です!」
歩いている最中も幽霊は、土屋さんの周りで静かに蠢いている。
「今日は冷え込みますね」
「そうですね。最近は寒いですね」
何気ない会話も率先して振ってくれる。気づかいのできる人だ。MyTuberは自由奔放で破天荒だと勝手に思い込んでいたけど、人それぞれなんだなと思った。幽霊が憑いていることを伝えた方がいいかどうか、悩みながらも、他愛もない会話をする。
「美奈さん、着きました」
「あ、はい」
そうこうしているうちに、目的地に到着したようだ。そこはお洒落な喫茶店のような佇まいだった。
「おかえりなさいませ、お嬢様・お坊ちゃま」
土屋さんが予約した時間にあわせてなのか執事が入口で待っていて、扉を開けてくれた。若くてスラっとして高身長の眼鏡イケメンが、席まで案内してくれる。注意事項を色々と説明してくれた後、土屋さんは手際よく、メニューを注文してくれた。
「初めてきました、執事喫茶な、なんですね」
「アフタヌーンティーがすごく美味しいって評判で、来てみたかったんです。でも、僕みたいな男一人じゃ不安で」
貴方みたいな可愛い顔の人、一人で来ても違和感ないよ。そして、ほぼ初対面の人を執事喫茶に誘うは流石Mytuberだ。
しばらくして、お目当てのアフタヌーンティーを執事が運んできた。最初は執事喫茶の世界観に戸惑っていたが、慣れてきて落ち着いた豪華な雰囲気を楽しめるようになっていた。可愛くて美味しそうな食べ物に、豪華絢爛の食器。本当に自分がお姫様のような気分になる。
「わぁ」
思わず声が漏れて、ハッと前を見て現実に戻る。本来なら憑いている本人の周辺から離れない1体の幽霊が、私の目の前にいた。ビックリした感情を一生懸命押し殺す。
「気にいってもらえたようで、良かったです」
「……は、い。とっても」
そんなに微笑ましいなぁって顔しないで。幽霊のせいで何だかサイコパスに見えるよ。
「改めて、先日は助けていただいてありがとうございました。お礼と言っては何ですが、今日は僕が払うので好きに食べてください」
「あ、ありがとうございます」
幽霊はこちらから何かしない限りは、襲ったりはしないはずだ。このままやり過ごせば大丈夫。大丈夫。大きく深呼吸をして、何か食べようと手を伸ばしてふと止まった。アフタヌーンティーなんて初めてだ。3段になっているこの可愛らしい食器のどこから食べるべきなのか……。ヤバい。教養の無さがバレる。
「下から食べるのが良いみたいですよ」
察していただいて本当に有難い。普通の家庭で生まれ育ったが為に。ちょっと、勉強しよう。これくらいは社会に出てからも役に立つ……はず。
「すいません、何か」
「いえ、僕、実はちょっと勉強してきたんです」
小声でいって照れくさそうにはにかむ。こういうところが、ファンを増やす部分なのだろう。
あれ? おかしいな。こっちに寄ってきた幽霊が、彼のもとに帰ろうとしない。どうしてだろう。痴漢の時もそうだったが、この幽霊たちは土屋さんに酷く執着しているようだ。
「ちょっと……」
「――ホントだ」
周りが少しざわつく音が聞こえた。登録者が100万人という重みを実感する。それと同時に幽霊のうちの2つが彼の元から飛び出し、噂をしている人間の周りをグルグルと回る。まずい。
「あのっ」
私が口を開いた途端、幽霊がすぐさま戻ってきた。なんだよ、敵意丸出しだな。私が視えている事を幽霊たちはおそらく気付いているのだろう。
「今日、本当に有難いんですけど、私と2人きりで、大丈夫だったんですか?」
土屋さんはアフタヌーンティースタンドの一番下の段にあるサンドイッチを手に取り、美味しそうに頬張りながら言う。
「あまり気にしないで下さい。僕は自分のやりたいように生きたいので」
サンドイッチがお気に召したのか満足げな顔をする。何事も目標を持っている人の言葉は真っ直ぐで素敵だ。そんな人にこんなに幽霊がとり憑いているのだ。今は体調に変化は無くても、いずれ不幸な結果になる。しかも執着心の強い幽霊たちは、彼の周囲を不幸にしているのではないだろうか。だが、私が視えると告白したら、土屋さんの動画のネタにされるのではというほんの少しの不信感で何も言えなかった。
「しっかりしていて凄いですね」
「美奈さんの方が凄いですよ。僕の事助けてくれましたから」
あれは不可抗力だが、何となく言いづらいので訂正しないでおこう。私は手持ち無沙汰になって、微笑んだ後、手元の紅茶をすすった。サンドイッチもマジ美味しい。