「おばさん!」

 キッチンに立つおばさんに声をかける。
 おばさんにも念のため、病院へ行くことを伝えなくちゃ。

 が、おばさんは冷蔵庫の横に貼ってあるカレンダーをぼんやり眺めていた。
 そうしている間にも、冷蔵庫までゆがみだしている。

「おばさん、あの星弥を――」

 星弥という言葉におばさんがハッと顔をあげてから私を見る。

「え……月穂、ちゃん?」
「おばさん、あのっ、今から星弥を病院へ――」

 ダメだ、間に合わない。
 溶けていく景色に視界がどんどん暗くなっていく。

 おばさんは私に近づくと、ゆるゆると首を振った。
 その表情も闇に飲み込まれていく。

「病院へ連れて行ってください」

 言えた、と思ったのもつかの間、おばさんの表情が曇っていることに気づく。

 どんどんゆがんでいく景色のなか、おばさんは首を横に振った。

「月穂ちゃん、あのね……星弥はもう亡くなったのよ」

 さみしげな声を最後に、夢は終わりを迎えた。