けれど、空翔は深く息を吐いてから私をにらむように見た。

「立ち直ってほしいのに、思い出の世界に逃げるなよ」
「立ち直るって……なに? それって、星弥のことを忘れるってこと?」

 なんでそんなことを言われなくちゃいけないの?
 忘れたくても忘れられない私の気持ちなんて、なんにも知らないくせに。

「忘れたフリしてんのはそっちだろ。俺が言いたいのは、過去に囚われているのはよくないってこと」
「そんなの、空翔に決められたくない」
「そうかよ」

 バスが雨の向こうから姿を現した。
 ドアが開くとさっさと空翔は前のひとり席にドカッと腰をおろした。

 なんで空翔がそんなに怒るのよ。

 もう話をする気にもなれず、いちばんうしろの座席を選んだ。
 ケンカになりイヤな感じ。
 空翔が怒っている理由がいまだにわからなかった。
 走り出したバスの窓に激しく雨がぶつかってくる。

 そうして、私はまた星弥のことを考える。