それにしても、こんな遠くの高校に通うなんて思わなかったな……。

 生徒の半数は学校併設の寮に住んでいるし、残りは近くの町出身の子たち。 
 同じ中学校からは数人しか通っていないと聞いている。

 なぜそんな人里離れた高校に進んだかと言うと――やめよう。

 思い出のフィルムを上映すれば、決まって悲しみが波のように押し寄せてくるから。
 ざぶんざぶんと私を吞み込み、息を苦しくさせるだけ。

 バスの窓越しの景色をぼんやり見る。
 駅前から十分も走れば、ビルよりも民家のほうが増えてくる。
 果てしなく続く平地には、やがて畑や田んぼばかりが目立つようになる。
 自然のなかに人間が間借りしている感じ。

 バスがエンジンを震わせ、山道に入っていく。
 左右に体が振られるたびに、体力が削られていくみたい。
 距離に嘆いたとしても、バスに乗っている時間が私は好きだった。

 きっと、本当の白山月穂に戻れる貴重な時間だからだろう。
 バスには、徐々に同じ制服の生徒が増えていき、同じクラスの子も数人乗って来た。
 気づかれないように顔を伏せ、気づいていないフリで目を閉じた。

 いつから私はこんなに臆病になったのだろう。
 不登校気味な高校生活になるなんて、中学生の頃は想像もしていなかった。