もう泣かない。

 肩で大きく息を吐いて、私は笑みを浮かべた。
 だって、好きな人をちゃんと見送るのが私の役目だから。

「星弥のおかげで夢を見ることができた。そこで気づいたのは、私はひとりぼっちじゃなかったってこと。もういなくても星弥はきっと見守ってくれているって思えた」

 星弥が「うん」とうなずいてくれた。

「それに私にはたくさんの人がいてくれたの。その人たちが私に力をくれた。だから……星弥のこと、忘れないって決めたの。一生かけてあなたを覚えていこうって決めたの」
「わかった」

 星弥が私の両手を握ってくれた。
 がんばれ、と言ってくれているんだと思った。

「同じように周りの人のことも思える私になりたい。ううん。なってみせる」

 もう星弥の姿は見えない。
 つないだ両手の力もどんどん弱くなっていく。

「月穂、ありがとう」

 最後に強く握られたあと、星弥の手の感覚は消えた。
 もう、星弥には会えないんだと心が受け入れたように思える。
 泣きそうな気持ちをこらえ、足を踏ん張った。
 負けない、もう負けたくない。
 
 ふいに、あたりの景色が急に明るくなった。

 見あげれば、遠くの空に月が銀色の光をまとって浮かんでいた。