「私ね、星弥が病気になってから、すごく怖かった。誰に会っても、星弥の前でさえも病気のことを口に出せなかった。星弥がいなくなってからも、そのことが信じられないままだった」
「月穂……」
「一緒に行くはずだった高校にひとりで通い出した。新しい友達もできた。だけど、自分のことじゃないみたいだった。さっきまで笑っていたと思ったら、急に泣きたくなったり……。こわれたおもちゃになった気分だった」

 お母さんが隣の席に移動してきて、私の肩に手を置いてくれた。
 肩に伝わる温度を感じながら、私は感情を言葉にする。

「学校に行きたくないときもあったし、サボったりもしてる。いつも、理由を考えてくれてありがとう」
「いいのよ。そんなの……そんなの親なら当然じゃないの」

 涙声になるお母さんの向こうで、お父さんはトンカツをじっとにらんでいる。

「星弥がいない世界で生きていくのが怖かった。星弥が死んだことを受け入れるのが怖かった。星弥が入院しているとき、神様にずっと願ってた。だけど、奇跡は起きなかった。それなのに、私は……」

 今も奇跡を信じている。
 くじけそうになっても、やっぱり星弥が好きで。
 それ以外の言葉では気持ちが表せないよ。

 星弥の夢は、あの日以来見られていない。
 明日は七月七日。
 てるてるぼうずだって、徹夜しても足りないまま当日を迎えてしまう。
 天気予報は変わらずの曇りで、降水確率は午後のほうが高くなっている。

「苦しいの。信じたいのにくじけそうになる気持ちが苦しいの」
「月穂」

 ギュッとお母さんが肩を抱いてくれた。 
 涙がボロボロと頬にこぼれては落ちていく。

「お母さん、私どうすればいいの? 元気になりたい。だけど、どうしても星弥のこと忘れられないの」
「大丈夫よ、大丈夫」

 胸に顔をうずめても、星弥の笑顔が消えてくれない。

 会いたい。どうしても会いたいよ。

「お母さん助けて。お願い、怖くてたまらないよ」

 子供のように泣きじゃくる私を、お母さんはいつまでも抱いてくれた。
 忘れたいのに忘れられない。
 笑いたいのに笑えない。
 泣きたくないのに泣いてしまう。

 このまま明日を迎えるのが怖くてしかたない。