加瀬くんに体操服と電車代を返しているところへ、冨永くんが登校してきた。
そして席へつくなりギョッとするようなことを聞いてくる。

「なあ、昨日おまえら一緒に電車乗ってなかった?」
「エ!??」

冨永くんも電車通学で下り線。降りるのはたしか私の一つ前の駅だ。

「しかもさあ、小宮山は男子の体操服着てて、加瀬は小宮山に抱きついて寝てた気がする」
電車をおりてホームを歩いてた時に、動き出した電車の中にチラッと私たちを見たのだと言う。だとしたら、まだ加瀬くんが爆睡してた頃だ。

「なあ、あれなんで?」
興味津々の目つきでしげしげとみつめられ、慌てた私はつい、シラを切ってしまった。
「し、しらない!! 男子の体操服なんて着るワケないじゃん。やだなー、何言ってんの」

「・・・」
「・・・」

しらじらしすぎる私に男子ふたりが気マズげに沈黙する。
苦しいのなんて十分わかってるんだけど。
んだけど、あの体操服のことを今ここで話題にすることだけは、絶対に絶対に避けねばならなかったのだ。
だってそんなことになったら、芋づる式に私の気持ちがバレちゃう。

「もうだいぶ暗かったからさ。見間違いだよ、きっと」
「だよなあ。『暗かった』もんね?」 

「!!!」

「昨日はすぐ帰ってたじゃねーかよ。何してたんだよ、おまえら」

語るに落ちるとはまさにこのこと。
青ざめる私に加瀬くんが呆れ果てた顔を向けてくる。
「アホか。もう黙っとけ」って。

「知らないってさ。別人ってことにしといてよ」
「あっそう。じゃ、そーかもネ」