「加瀬くん、おきて」

船入に着く少し前、オレはなぜか身体の下からゆさゆさと胸のあたりを揺すぶられて目を覚ました。

目を開けてみれば、オレにのしかかられた小宮山が窮屈そうに窓側へ身を寄せている。
ガッチリ抱きついて彼女の首筋に顔をうずめるようにして意識を失っていたオレは、自分の願望をそのまま形にしたかのようなヤラシイ寝相を晒していた。

「ゴメン、重かった?」
「大丈夫」

トロンてした視線を送られて、起きて早々胸をやられる。

彼女があんまり可愛くて。
やっぱスゲー好きで。

んで、ついオレは。
すぐそこにある小宮山の鼻先にオレのそれがくっつくまで、そおっと顔を近づけてみたのだ。そしたらーーー

ウソだろ、なんでだよ・・

なぜか小宮山が動かない。全然逃げてかない。
恥ずかしそうに伏せられた睫毛がふるふると震えているのは、一切の誇張なく、オレのほんの数センチ先。

それに煽られて、オレは友達としての節度を忘れた。
背もたれの隙間から手をつっこんで彼女の腰に腕をまわし、甘えるみたいに鼻先を彼女にそおっと滑らせる。
寝起きだからといって言い訳はできない。どー考えたってやり過ぎである。
ところが、だ。
普段ならすぐに文句言ってくるハズの小宮山が、今日に限ってなーんも言ってこない。拒否るどころかシャツの端っこ握りしめてオレに縋りついちゃう始末。

オレは慌てた。でもって悶えた。

まてまて。
ここはやっぱり「イヤ」とか「ダメ」とか言って、オレの胸、押し返してくれねーと。
すんげえ期待しちゃうし、やめられなくなる。

「・・なんで?」

オレがポロッともらした言葉で正気に返った小宮山はゆっくりと前を向き、「なんでかなあ」ってポツリと一言もらして困ったよう小さく笑った。

なにそれ、どう解釈すればいい!?

そこで突っ込んで聞いとけばよかったのにビビりすぎて何も言えなかったオレは、夜になってそれを死ぬほど後悔することになる。