すぐそこのバス停へと向かいながら、オレは隣を歩く小宮山をチラチラと盗み見ていた。

やっぱり嫌がってる素振りはない。
普通に会話して、普通に笑ってくれる。
いつも通りの小宮山のままだーーーー

「・・・」

ニヤケてんのが小宮山にバレないように、オレはこっそりと手のひらで口元を覆った。
やべえ、顔がユルむ。嬉しすぎて。

オレは嫌がられてない。
生理的にだって絶対にセーフだ。間違いない。
なんならそこらへんを歩いてる女子を片っ端から捕まえて聞いてみてもいい。
10人に聞いたら、10人全員が「アンタは大丈夫」って頷いてくれるハズだ。

無意識に小さくガッツポーズを決めてたオレを小宮山が怪訝な顔で眺める。

「なにしてんの?? なんかヘンだよ、どーかした?」
「いや、大丈夫。オレは全然ヘンじゃない」

浮かれながら乗った帰りのバスは、エアコンが効きすぎていて寒かった。
小宮山の腕にはうっすらと鳥肌が立っている。服は着替えたけど、たぶん下着はそのままだ。足元もビショビショ、髪も濡れたまま乾いてない。

「寒いだろ。ちょっとだけくっつく?」
気が大きくなってるオレの口が滑る。
「えーっと・・・いいの? そんなことして・・」
「全っっ然いいケド!?」
チラッとオレを見た小宮山は、少し迷ってからぴたっと身体をくっつけてきた。
「ゴメンね、寒すぎる・・」って言って。

この時のオレの衝撃と言ったらもうーーー

もちろんオレは死ぬ気で平静を装った。狼狽えたりしたらカッコ悪いから。
変質者のように荒くなる呼吸を無理矢理抑え込み、大人の男のような落ち着きを全力で演出。
オレは震える腕をそおっと小宮山の背中にまわした。

ーーー信じらんねえ。こんなことってある!?

小宮山がオレの腕の中にいて、オレと体温を分け合ってる。

「イ、イヤじゃない? オレにくっつくの・・」
「・・イヤじゃないよ」

「!!!」

小宮山にバレないように胸の中だけで目一杯シアワセを噛みしめた。

ヤッタ!!
オレもう、死んでもいい!! 
死なねえけど。

そんなかんじでしばらくは自分のことだけに必死だったオレ。
だけど、そのうち腕の中の小宮山がまだ震えているらしいことに気がついたのだ。