胸がギリギリと痛んだ。

だよな。わかってた。
オレが使った後の体操服なんて着れるわけない。
そんなのわかってたんだ。

視線を落として雨に濡れたスニーカーのつま先をじっとみつめる。
自分じゃそんなに弱い男のつもりなんてなかった。
なのにオレ、もう泣きそう。

「わりぃ、ヤだよな。んじゃ、どーすっかなあ・・」
今の丸々、全部なかったことにして振り出しに戻ろうとするオレに、小宮山が慌てる。
「まってまって、できれば体操服は貸してほしい!」

驚愕。
今なんつった!? 

「エ!! いいの!??」
「いいのってそれ、こっちのセリフなんだけど・・」
必死で自分を落ち着かせる。
「い、いや、間違えた。そりゃ小宮山がよけりゃ貸してやるけどさ。んじゃ一体、小宮山は何を悩んでるワケ??」
「だって男子の体操服よ? そんなの着て電車に乗れる!?」

「ーーーハイ?」

「加瀬くんが南坂川でおりたら、あと駅4つぶんも・・1人で乗ってられる勇気がナイ」
「な・・っんだ、そんなコトかよ!!」
ホッとするあまり、ヘナヘナとへたり込みそうになるのをオレはどーにか持ちこたえた。

「ならオレが送ってやるよ。小宮山んちまで」
「い、いいの!?」
小宮山がすがるような目でオレを見る。
「ウン。送る」
「ホントに!? ありがとう、助かる!!」
「いーのいーの。気にするな」

主にオレの目に毒なので、カバンからスポーツタオルを引っ張り出して小宮山の肩・・というかスケスケを覆ってやると、ズブ濡れの小宮山が泣きそうな顔して笑う。
「加瀬くんが一緒でよかったあ」って。
オレだって、オマエと一緒でヨカッタ。ここにいるのが他の誰でもなく、このオレで。

お願いだから早くそれを着替えてくれ。
もうさっきから気になってしょうがないから。