結果的に、走ったのは失敗だった。
小宮山が転んじゃったから。

病院前のバス停に戻る頃には、小宮山は全身ズブ濡れ。オレだって濡れたけど、でっかい水たまりにマトモにはまって浸かった小宮山ほどじゃない。
オレは今、ツレのすさまじい濡れっぷりを眺めつつ、どうしたもんかなって考えてるところ。

「なあ、そんなんじゃバス乗せてもらえねーかもよ?」
「だよね。でも着替えがないの。どーしよう」

ズブ濡れの小宮山がションボリと途方に暮れる。

「・・・」

実はオレ、着替え持ってる。体操服と短パンを。
ただし、それは今日体育の時間にオレが使った使用済みのやつなのだ。

ーーー言えねえよなあ。貸してやろうか、だなんて。

男子が使った後の体操服なんて女子にはハードルの高すぎる代物だ。
おまけにオレは小宮山への接触厳禁。
ってことは体操服だって当然、厳禁だろう。

そんなことを悶々と考えた結果、オレはセコくてちーさな結論に至った。

ダメダメ。やっぱ黙っとこ。
嫌な顔なんてされたら立ち直れねえ。