こみやまーーー



って。名前を呼ばれた気がした。どこかから。

「おきろ、小宮山。準備しろ」

重たい瞼の隙間から見えたのは男の子のズボンの膝。
べったりよっかかってる肩の上で頭をぐるりと動かせば、よーく知ってる加瀬くんの顔がすぐそこに。
んでもなぜか彼はシッカリと斜め右上を向いたまま、私のほうへは横目でチラリとしか視線をよこさない。

先に言っておけば、この時、私は完全に目が覚めてはいなかった。
ボンヤリと夢うつつ。ネジが数本ユルんでいたのである。

薄目を開けて加瀬くんの顔を眺めてみるが、限界ギリギリまで首を捻ってソッポを向く彼のそぶりはとにかくそっけない。
それで私は、なんだかとても悲しくなった。

「ねえ、こっち向いてよ。顔見えない」
「な・・・・!?」
ゴッて赤面した加瀬くんが窓の外を顎でしゃくる。
「早く目え覚ませ。もう着くぞ」って。

「・・ん?? あーーーーー!!!」

ここにきて私はやっと本当に覚醒した。

しまった、私、お見舞いに行くんだった!!
ガバッと身体をおこして窓の外を見る。
「ゴメン! 今どこ!? どのあたり!??」
「もう殿山つくとこ」
「殿山あ!? 加瀬くんなんでまだ乗ってんの?」
南坂川なんかとっくに過ぎ去ってる。
振り返ってマジマジと眺めた加瀬くんの顔は、赤くはあっても、のんびりと落ちついていた。
「だってオマエ、すんげえ爆睡してんだもん。心配だったから一緒に乗ってた」
「うっそ、ゴメン!」
「いいよ、そんなことは。ーーーそれより近い!!」

「あ、ゴメンね・・」

妙に姿勢よく背筋を伸ばした加瀬くんにまたもやそっぽを向かれて胸がチクチクと痛んだ。
ガンガンこられても困るくせに、距離を置かれると寂しい。
どんだけワガママなんだって、自分でも思うけど。