下りの定期しかない私は、加瀬くんがトイレに行ってる間に殿山までの切符を買っておくことにした。そしたら切符売り場で、たまたま中学時代の同級生、内藤くんに声をかけられたのだ。
「小宮山あ、久しぶり!」って。
内藤くんは市内の男子校に進学していて、会うのは卒業式以来。
にこやかに足を止めて立ち止まった彼の目的はおそらく・・

「なあ、カナ元気?」

4組の松浦カナは、私たちと同中の女の子だ。
クラスが違うからあんまり見かけないけれど、普通に元気にやっているハズだ。
それを伝えると、内藤くんは「そっかあ」ってとっても懐かしそうに目を細めた。
中学時代、彼はカナにずーっと片想いしていて、たまたま私はそれを知っていた。内気な彼の内緒の恋を知る者は、私を含めおそらくごく少数。

「カナ彼氏できた?」
「さあ、どうだろ。わかんない」
「小宮山お願い、こっそり聞いてみてよ。オレのこと言わずにさあ」
「内藤くん、全っ然変わんないねえ・・」

内藤くんの奥手と弱気は昔のまんま。
見ていてとにかくもどかしく、それでついつい手を差し伸べてあげたくなってしまう。
内藤くんとはそういうタイプの子なのである。

実は昔もよくこうやって彼のリサーチを引き受けていた私。
懐かしさとともに当時の感覚が蘇り、気軽にカナの身辺調査を引き受けてしまった。

「いーよ。んじゃ聞いてみる」
「いーの!? ありがと! なら小宮山のLINE教えて。カナの情報まわしてよ」