花壇の水やりを終えて教室に戻ってみると、加瀬くんが私の席に座って居眠りをしていた。だらんと椅子の背にもたれて腕を組み、頭をがっくりと前に倒して。
口を閉じてたほうが断然大人っぽい加瀬くんのうたたね姿にドキドキと胸を鳴らしつつ机の上の日誌を覗いてみると、それはまだ驚くほどの白さをキープしていた。

なあんだ、全然進んでないじゃないの。
仕方がない、私が書くか・・って眠りこける加瀬くんの手からそろりとシャーペンを引き抜いた。

私たち、今日は一緒に日直をしている。
うちのクラスじゃ日直は出席番号順にまわすことになっていて、『加瀬』『小宮山』って名前が並んでる私たちは2回に1回はペアになる。

いつも賑やかな加瀬くんが寝ちゃってるせいで、放課後の教室はとっても静かだった。耳に響くのはシャーペンの滑る小さな音と、どこかの部活の雑音だけ。

ふと手を止めて、私はすぐ目の前にある加瀬くんの黒い頭を眺めた。

ーーー居心地が、いいんだよなあ。

ホントなら、加瀬くんみたいな男の子は苦手なはずだった。
ズケズケと図々しくて、やたらオシが強く、言い出したら聞かないとこのある加瀬くん。
うちの温和なお兄ちゃんとは全く違うタイプの男の子に新学期早々グイグイ来られて、最初はびっくりした。
だけどびっくりしすぎて腰が引けたのなんてほんの一瞬で、私はあっという間に彼を好きになってしまったのである。