オレの部屋のすぐ隣。
兄ちゃんの部屋から楽しそうな声が漏れてくる。
ゲームしながら、オレはなんとなくふたりの会話に耳をすませていた。
壁が薄いから何話してるかだいたいわかる。

あの日、兄ちゃんはシュクハクシセツ(要はラブホだ)に行きたいつって、恥ずかしげもなく駄々をこねまくっていた。小宮山さんにアホな提案ばっかして。
なにがなんでも小宮山さんにウンて言わせようとして頑張る兄ちゃんのあの手この手を、オレはずーっと壁越しに聞いていたのだ。

我が強くて、言い出したら聞かない兄ちゃん。
口喧嘩にやたら強い兄ちゃん。
そのわりにすんげえ優しい兄ちゃん。
オレの知ってる兄ちゃんってこんなかんじ。
だけど、こんなふうに誰かに甘えまくる兄ちゃんってのは知らなかった。
兄ちゃんも、家族の前では年相応に高校生らしくスカしていたからだ。