そのうちアレコレ言うだけじゃ足りなくなってきたのか、ついに加瀬くんが小宮山さんの手をとってぎゅうっと握りしめた。
必死で彼女をみつめる彼の横顔がチラリと私の視界に映り込む。

「!!!」

瞬間、私は唐突に息ができなくなった。
うまく吸えない。吐けない。胸が苦しい。

彼のすぐ後ろで聞き耳を立ててる在りし日の天敵(私)にも気づかず、一心不乱に彼女をみつめる不用心な彼は、ただただ、全力で恋をしている男の子の顔をしていた。

こんな加瀬くんは知らない。
一度だって見たことがない。

ショックで本当に息が止まってしまいそうだった。
チョコ突き返されてふられた時だって、こんなに辛くはなかったのだ。

『なあ、コッチ見てよ』

切なく響く加瀬くんの声が、あの頃の自分と重なった。
だって私も、ずうっと思ってたから。
コッチ見て、って。