「んじゃ、すみれ」
「ふふ、なに?」
「好きだ」

それからオレは、すみれすみれって囁きながら、大事に大事に彼女を抱いた。

「ぜえっったい、オレがオマエを幸せにしてやるよ。辛かったぶんは、オレと一緒に取り返そーぜ」
小宮山、いや、すみれが笑う。
「もうとっくに幸せだよ、アリガト」って。

これといって夢も野望もない。
派手なドラマも事件もない。
オレはごくフツーの人生を、ごくフツーに生きてる。
たいしたことはできないし、オレが守ってやれるのは、せいぜい彼女とおなかの中の子供くらい。
だけど、オレにとってはそれが・・

「律」

ふいにそう呼ばれて、胸が震えた。
ちょっとかすれた小さな声で、すみれの口から初めて紡がれたオレの名前。
胸が震えるのは、オレがすみれを愛してるから。

「泣いてるの?」
すみれの指がオレの目元を滑る。
「どしたの? 大丈夫?」

「大丈夫」

間違いないって思った。
オレが何のために、何を求めて生きるのか。


「シアワセだなって思ってただけ」