「ねえ、加瀬くん」
「ハイ」
父に声をかけられて、加瀬くんがハッと顔を上げる。
「君ホントにB大中退するの?」
「ハイ」って頷く加瀬くんに、父が偉っそーうで厭味ったらしい笑顔を向けた。
「まさか本気なの!? 信じられないな」

私は昔から、父のこの笑い方が大嫌い。唇の片側だけをキュッとあげて上から見下すように笑うのだ。久しぶりに見たけど、やっぱりキライ。イッパツめからこれかい、って胸の温度がダダ下がる。
そんな私の視線に気づきもしない父の興味は、今は加瀬くんのB大中退の件にしか向けられていない。
真っ先に食いつくだろうなあとは思ってたけど、やっぱりそうだった。

「どうしてそんなバカなことするの? それに私はこの結婚には反対だ」
そう言ってコーヒーをすする父に加瀬くんが慌てた。
「ぼ、僕じゃダメでしょうか・・」
冷や汗かいている加瀬くんに、父がニッコリと笑う。
「そうじゃない。君はとっても優秀だ」

ーーーだろうな。

加瀬くんのウケはけして悪くない。
なんでかっていったら、それは加瀬くんがB大生だからだ。