小宮山家のリビングに通された私たちは、母に促されて大きな革張りのソファに並んで座った。お客さんなんてだーれも来ないのに、ソファがやたらと立派なのは父の見栄なのだ。Ｌ字に配置されてるソファのもう片側には父と母が一緒に座る。

「はじめまして、加瀬律です」

緊張感をバリバリと漂わせながら、まずは加瀬くんが自己紹介をはじめた。
それに続いて父と母も。父は某大手企業の管理職、母は市内の会計事務所で事務のパートをしている。
互いに自己紹介が終わると、加瀬くんは早くも本題に移った。

「あの、すみれさんのおなかには僕の子供がいます」
「聞いてます」
両親がそろって頷くと、加瀬くんが深々と頭を下げた。
「僕のせいです。ホントに申し訳ありません」
そのまま加瀬くんが続ける。
「来年の４月から大学を辞めて坂川の小野製作所で働きます。すみれさんのこと、きちんと養っていけると思います。絶対に幸せにします。ですからどうか、僕をすみれさんと結婚させてください」
って、そこまで一気に言い切って加瀬くんは深々と頭を下げた。