そして午後。
私たちはぽかぽかと暖かく穏やかな船入駅にいた。

とっても気持ちいのいい冬の午後だけれども。
嵐の前の静けさというかーーー私ひとりがこれから始まるであろう不愉快なひとときに思いを馳せて、顔を青白くしていた。

「さーて。じゃあ、いよいよ小宮山んち行くか!」
「ーーーちょ、ちょっとまって!」

気合いを入れて歩き出そうとする加瀬くんの腕をつかんで引き止めてしまう。
足が動いてくれなくて。
「なに?」
「えっとーー・・」
自分から引き止めておいてナンだけど、次の言葉が出てこない。
私の様子にうっすらと何かを察した加瀬くんが手を取ってぎゅっと握ってくれる。
「オレ、一応覚悟してきたからさ。どんなこと言われても大丈夫」
「ウ、ウン」
加瀬くんの優しい笑顔と、手のひらのあたたかさが胸に沁みる。

行く前からもう苦しい。

私の両親はけして『いい人』じゃない。
きっと、ウチの家族は加瀬くんをガッカリさせる。