加瀬くんが門島にいた日、私は何も知らず普段通りバイトに出ていた。
夕方のピークが落ち着いてきた頃、カウンターの奥から八木先輩にチョイチョイって手招きされる。

「ねえ、小宮山さん、もしかして妊娠してない？」
「！！！」
八木先輩が観察するみたいにじっと私見て言う。
「ずーっと気持ち悪そうだけど、病気じゃないでしょ？　姉ちゃんがつわりで家にいた時の感じに似てんだよね。なんか」

私はチラリと店の奥に視線を走らせた。
まだ店長さんの耳には入れたくない。
先のことが全然わからないから、バイト先はギリギリまで確保しておきたいのだ。