「なあ、小宮山」
どこか困ったような優しい声で名前を呼ばれて、再びギクリと背筋が伸びる。
「な、なに?」
「悪いけど今日はダメ」
「エ??」
タオルをポイって放った加瀬くんは、もう一度私の手をキツーく握り直した。

「今日はごまかすのやめてくれ」

私の『知らんぷり』にあえて触れず、見て見ぬフリをしとくこと。
私たちの間ではそれが暗黙の了解であったはずなのに。
うまーく釣り合いがとれてたシーソーから急に加瀬くんだけが飛び降りた。どすんと地面に落っこちてしまった私のほうへ、加瀬くんが勝手に距離をつめてくる。