「ひゃあああーーー!!」
「バ、バカ、オレだって。叫ぶなよ」

それは知ってた。
だからこそ叫んじゃったのだが、それは言えない。

「加瀬くん、なんでここにいるの!?」
「心配で来てみたの! 怖くてじっとしてらんなかった」
オレ、深夜のドタキャンってトラウマなんだよね・・って、暗ーい目をした加瀬くんが私の様子をじっとりと窺う。
「そ、そっかあ、ゴメン。んでアリガト・・」

彼にそう言われて、そういえば・・と浮気騒動の時のことを思い出した。
そうか。あの時も私、夜中にばっか連絡してたんだっけ、と。

「バイトの帰り? 体調は悪くないわけね?」
「・・ウン」
「んじゃ何でドタキャン? 土日になんかあんの?」
「ええっとーーー」

実は今回、加瀬くんにはごく簡単に『週末ダメになった』としか伝えていない。あんまり細々と言い訳する自信がなかったからだ。
土日の予定って言われても、それ用のストーリーなんて何も用意していなかった。
まさか産婦人科に行きたいとも言えずに言い淀んでいると、加瀬くんにスッゴイ目で睨まれる。

「なんで黙ってんだよ、どーゆうこと!?」
「ウ、ウン。えーっと・・」

そんな私に加瀬くんが小さくため息をついた。

「まずは部屋、入れてよ」
「ワカッタ。ーーーあ!」
「なに?」
「や、なんでもナイ・・」

ニッコリと笑顔を張りつけて首を横にふりつつ、その隙に必死で記憶をたぐった。

ーーー検査薬の箱!!
あれ、どこに置いたっけ・・!?

この時の私は自分のことでいっぱいいっぱい。
自分の曖昧で怪しげな言動が彼にどれほどの不安を与えるか・・なんてことには全く思いが至らなかった。