あれからオレは部屋を移った。
引越し先は大学の学生寮。寮は風紀に厳しくて男子寮も女子寮も、家族以外の異性は立ち入り禁止。そんなだから全然人気はないんだけど、オレにとってはむしろ好都合だった。寮のお固いセキュリティが、そのままオレの身の潔白を証明してくれる。

ポカーンてしてた小宮山が、フトンに潜って縮こまった。
「ゴメンね、私が文句言ったから・・」
「いーの。いーの」
「加瀬くん色々ありがとう」
「いーんだヨ」
オレの胸に収まりにくる小宮山をつかまえて目を合わせると、今日もトロリとその顔が溶ける。

「ーーー小宮山は、この顔が一番カワイイ。オレのこと大好きって顔・・」

オレにはこれがたまらない。
オレに向けられる小宮山の好意が、ヤバいクスリかなにかのようにオレの全身を巡り、刺激する。
実際、ホントに何か出てんじゃねーかって思うのだ。オレの脳内に快楽物質的な何かが。

こっぱずかしいユビワも、引っ越しも、一見小宮山のためにしているようであって実はそうじゃない。ぜーんぶオレ自身のため。
自分の幸せを守るためにしたことだ。

そこにガッツリと需要と供給の図式が成り立っていることに、果たして小宮山は気がついているだろうか。