「映画どうしようか。次ので観る? それとも日にち変える?」

加瀬くんにそう聞かれて、朝考えてたことが頭をよぎる。
言うなら今だ。
もうこんなふうに会うのはやめる、って。

なのにーーー

「どっちでもいいよ。次のでもいいし、加瀬くんがイヤだったら今度にするし」

口が勝手に動いてた。
断るつもりが、真逆の内容を口走っちゃってる。
「オレ、もう大丈夫。せっかくだから次で観る?」
「ウン。じゃあそうする」
朝の決心なんか忘れて、私はいそいそとスマホを取り出した。
せっかく来たんだもん。どうせなら観て帰りたいじゃないか。

さっそく上映時間をしらべてみると。
「うわ、次のはもう10分切ってる! その次は17:40だけど、どーする? 遅くなるけどこれにする?」
って声かけてみたのに、一向に返事が返ってこない。
おかしいなと思ってスマホから顔をあげてみれば、ボンヤリと上の空の彼とかちりと目が合った。

「加瀬くん、聞いてた?」
「ゴメン、聞いてなかった」

加瀬くんは私の手からひょいとスマホを取り上げると、それを私と反対側のベンチの端っこ、加瀬くんのお尻の後ろ辺りに隠すようにしてことりと置いた。
「嘘、スマホ返して??」
加瀬くんの向こう側に手を伸ばそうとする私をやんわりと押しとどめ、加瀬くんが私の手をとってぎゅうっと握りしめる。

「小宮山、オレさーーー」

加瀬くんの漂わせる甘い気配と、すんごい目ヂカラとにぎくりと背筋が強張った。

チョット待って。この雰囲気。
なんか・・とてつもなくイヤな予感がするーーー!!

慌ててふりほどいた彼の手の中に、苦し紛れに真新しいタオルを1枚、するりと滑り込ませてみる。
「とりあえず髪乾かそうよ。・・ね?」
「髪も乾かずけどさ、それよかーーー「ああーー! そうだったそうだった。忘れるトコだった! あのねえ、次の上映時間なんだけどーーー」
スマホを素早く拾い上げて何事もなかったかのように時間を巻き戻し、この際少々わざとらしくても構わないとばかりに私は露骨にすっとぼけた。

気づかないフリ。
何もなかったフリ。
これでなんとかなってたのだ。今までは。

だけど、今日は・・・・