じーって先輩の顔を見ながら加瀬くんが口を開いた。
「オレ、浮気もボーリョクもしません」
「え!?・・あ、そーですか」
ギョッとした先輩が、ちょっとだけ後ずさった。
「彼女がお世話になってるみたいですけど・・」
「はあ」
「絶対に手え出さないで下さい」
「エ!??」
珍しく先輩が狼狽えている。驚きと、心当たりがまるでないのとで。

ゴメン、先輩。
いきなりこんなこと言われても困るよね。
だけどーーーああ、マズイ。涙出そう・・

私はふたつ隣のテーブルを片づけながらそれを見ていた。  

昔と同じ。変わらない加瀬くん。

あれは、門島駅のホームだった。
春樹くんに話つけてくるって歩いていっちゃった彼の背中にドキドキと胸を高鳴らせた日のことがリアルに蘇る。

あの時はすごく嬉しかった。
同じように、今も。

加瀬くん、ありがとう。
全くの杞憂だけど、やっぱりすごく嬉しい。

「お願いできますか」
「わ、わかりました」
先輩が首を上下にカックンカックンふって快諾すると、その様子に加瀬くんはホッと安堵のため息を漏らした。
「ヨカッタ。んじゃ、イタダキマス」

その後、すっきりした顔でアイスを食べ終えた加瀬くんはさっさと帰っていってしまった。

「あービックリした。オレこんなビビったの久しぶり・・」
「先輩、ゴメンね」
「彼氏、目がマジだったわ」
腕組みした先輩が再び首をひねる。
「加瀬くん、ホントに浮気してねえのかなあ・・でもそんなことってある!?」

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