「なんか・・浮気してるわりに堂々としてんね? もしかしてすげータチの悪いオトコなの?」
「そんなことない、あれは怒ってるだけ」

「なんで向こうが怒ってんだよ。フツー逆だろ」
「・・それはたぶん、会う会う言いながら私が全然会おうとしないから・・」
って言ったら、先輩が首をかしげた。
「え? 別れたんじゃないの?」
「・・それはこれからです。別れ話、まだしてなくて」
ボソボソとそう言う私に先輩が目を丸くする。
「彼氏と話してないの!?」
「ハイ」
「一度も?」
「ハイ」
「アンタ、なにしてんの・・いや、してねーのか。なんも」

呆れ果てた顔を向けられるけどそれも仕方なかった。だってあれからもう、ひと月以上たってる。

「怖くて会えなかったんですよ」
「だからってそんな中途半端にしてていいわけ?」
「だって会ったら終わりになるもん・・」
「ハアア??」

シラけきった顔した先輩が言う。
別れる気がないならさっさと許してやれば、って。

「許すなんて、それはムリです!」
「なんなの、一体・・」

許すのもイヤ。
終わるのもイヤ。
だから話すのがイヤ。
何もかも全部イヤで、身動きがとれなかった。

でも、もう逃げられない。

加瀬くんが注文した定食をテーブルに運んでいくと、もうあんまり怒ってる様子のない加瀬くんが私をまっすぐに見上げて言う。

「オレ、外で待ってるからさ。あとで話そ?」
「ワカッタ」