なんとなく、空を仰いだ。
澄み渡った青空に白い雲。
こんなに気持ちのいい午後なのに。
今からそーゆうの・・やる?

それに今日は、加瀬くんの誕生日だ。
私が騒げばこれから先加瀬くんは誕生日の度にこのイヤな騒動を思い出すハメになるだろう。

「・・・」

私はくるりと向きをかえると、ゴロゴロと荷物を引きずって今来た道を引き返した。

久しぶりに来ていいって言われて嬉しかった。
で、ついつい早く来すぎたのだ。

加瀬くんが留守なら適当にヒマつぶせばいいやって思って連絡はしなかった。
気持ちがいいからのんびり歩いて。
呑気に5月の午後を満喫して。
まさかこんなことになるなんて思いもせずに。

新幹線に乗る前に、加瀬くんにひとことだけ連絡を入れておいた。
「行けなくなった」って。

少しだけ時間がほしかった。
自分の気持ちを整理してから別れたい。

『わかった。また連絡して』

私が来ないとわかったら、加瀬くんはまた彼女を部屋に呼ぶのだろうか。