「大丈夫」

べったりはりついてる前髪に指をかけて横に流し、ビショビショのおデコにハンカチをあてて、しょんぼりうつむく加瀬くんの顔を拭いていく。

「目、痛くない?」
「ウン」
「そっか。ヨカッタ」

だけど、さすがにハンカチだけじゃどうにもなんないし、それにここのお掃除だって必要だ。
「ちょっと待ってて。何か拭くもの借りてくる」
それにこくりと頷いた加瀬くんが、私をみつめてつぶやいた。

「アリガト、小宮山・・」

一緒に来てくれたスタッフさんは、床の掃除から鑑賞券の払い戻しまで、ものすごい手際で終わらせてくれた。
彼女にたくさんお礼を言って、私たちはそそくさと映画館を後にした。
ズブ濡れの加瀬くんをなんとかするために。