タヌキ寝入りの私をぎゅうっと抱きしめて、加瀬くんがほっぺをすりよせる。
タップリと気持ちのこもったその頬ずりは、なんだかとっても必死で切なげだった。

ーーー自惚れだろうか。こんな状況だってのに、凄ーく大事にしてもらってるような気がしてならない。

ぐりぐりと押しつけられるほっぺや、背中に感じる彼の胸。
あったかくて優しい手のひらも。
私に触れる加瀬くんのどこもかしこもが愛情に満ちているように思えてしまうのは、なぜなのか。

と、加瀬くんの鼻先が私の頬を滑った。
甘えるように、スイスイと可愛らしく数往復。
変わらない愛情表現に胸がつまる。

もうイヤだ。ワケがわからない。
本当にこれが、浮気してる男の態度だってのかーーー

「オマエ、起きてるだろ」
ひとり、悶々と頭を悩ませているところに突然声をかけられて肩が跳ねた。
「ビックリした。急に話しかけないでよ。驚くじゃん」
「急にじゃねえし。なんか考え事?」

そーだよ、考え事。
加瀬くんのことで悩んでんじゃん。

で、ふと思いついた。
カマかけてみよ、って。

「・・友達がね、彼氏に浮気されてるかもって言っててね?」
「ウン」
「その子の彼氏、ある女の子の前でだけ挙動不審になるんだって。それ、どー思う?」
「そーだなあ・・」
とか言いながらたいして考えもせず、加瀬くんは適当に言い放った。
「浮気してんじゃねーの?」って。

「もしかしてオレのことも心配したりしてた?」
「・・ウ、ウン、まあね」
加瀬くんが嬉しそーうに笑う。
「へへへ。オレは浮気なんかしねーよ。どんなすげーオッパイに誘惑されよーが、小宮山だけ!」
「オッパイ・・??」
「あ・・いやいや。モノノタトエ、ってやつだヨ」

罪悪感も、後ろめたさもない。
加瀬くんは「浮気」ってワードに全く反応しない。