「小宮山さん、今日バイトだっけ? 遅番、遠藤さんじゃなかった? 彼氏んとこ行かねーの?」
厨房に現れた私にそう聞いてきたのは、哲学科2年の八木先輩。
バイト先でも私より1年先輩だ。

「遠藤さんと代わったの。加瀬くん、今日は科の親睦会なんで」
話しながら布巾を手に取り、私は空いたばかりのテーブルの片付けに向かった。
店内は満席に近い。今日は初っ端から忙しそうだ。

本当は。
加瀬くんは、私が来るなら親睦会には行かないって言ってくれたんだけど、素直にそうしてって言えなかった。
ヒマなくせに、私も今週は用事があるって言って見栄をはったのだ。

加瀬くんのとこは、ちょいちょい科の親睦会がある。
以前たまたまその親睦会の真っ最中に電話をしてしまったことがあって、その時に聞いてしまったのだ。
電話の向こう側に響く、女の子たちの楽しそうな笑い声を。

科内1割の女子の声かと思いきや、後日加瀬くんに確かめてみて実はそうじゃないことがわかった。あのキャーキャー言ってたのは、他大学の女子たち。
最初は純粋に科内のゴハン会だったのが、回を重ねるごとにどうも合コン的なものに変化していってるらしく、ここのとこ毎回とっかえひっかえ他大学から女子が混ざりに来ているようなのだ。
内情を知った時はガッカリした。だって加瀬くん、それに何の疑問も持たずフツーに出席してるみたいだったから。

で、私は今、内心ヘソを曲げている。
親睦会があるならそちらへどーぞ、って。