薄い上掛けにふたりでくるまりながら、ふとあることを思い出して、オレは小宮山に聞いてみたのだ。

「なあ、オマエの本ってこれだけ?」
「ん?」
「アレがなかった。ハイデガー」
「あー、ウン。そこには置いてないから」
って小宮山がベッドの中から本棚を眺める。
「どこにあんだよ?」
「ちがうとこ」

見たいって言ったら小宮山が苦笑いする。おもしろくないよ、って。

「それでも見たい」
「ぜーったい、おもしろくないって」
「いんだよ、見てみたいの。どこ?」

じーってオレを見てた小宮山が、ささっと服を着てベッドをおりる。で、よいしょってベッドの下に腕をつっこんでダンボール箱をひきずりだした。
中には古臭くて小難しそうな本がギッシリ。

「うわ。すげーなあ」

箱の中から小宮山が1冊取り出した。
「これ」って。

「なんでこんなとこ隠してんの?」
「だってこんなの並べてたら確実に変人だって思われるもん」
「ふーん。まあ、そうかもなあ」
たしかにこんな本並べてる女子高生って、あんまりいないかもしれない。

興味津々小宮山に手渡された本をめくってみたけど、何が書いてあるのかオレにはサッパリわからなかった。
「オマエさあ、なんでこんなの読んでんの? オモシロイの?」
「オモシロイ」
小宮山がキッパリと言い切る。