「ウンウン、もちろん感謝してる。ありがとう」って頷きながらも、私は全然別のことを考えていた。

私は加瀬くんみたいな強引でオシの強いタイプにとにかく弱い。
そして向こう側からも、好かれやすい傾向にある。
ガンガン主張して求める側と、それを受け入れる側とで、タイプがちょうどよく真逆だからだ。
マナとの関係なんかもそう。
加瀬くんとマナの相性が悪いのなんて、十中八九、同族嫌悪だ。

父との関係でも、私は受け入れる側だった。ただし、こっちは無理矢理に。
強要は支配だ。そんな相手とはマトモな関係なんて築けない。

「オレ、行きたい。シュクハクシセツ!」
「無理だって」
「んじゃ、雨の日に傘さしてけば? それなら顔隠せんじゃねえ? ね、そーしよ?」

加瀬くんは、今まさに言い出したら聞かないの真っ最中。だけど加瀬くんは、揺さぶるだけで強要しない。
だから私は安心してこう言えるのだ。

「イヤ」

自由がしっかり担保された関係の中でしか「イヤ」は機能しない。これは絶対だ。