「ありがと、加瀬くん」

受験生活でちょっとテンションがおかしくなってる私は、涙がこぼれて止まらなくなった。
「あーもー、泣くなよ」
ほれ、ってティッシュを渡してくれる。
加瀬くんはなんだかんだ言って、とにかく優しい。

「なあなあ。オレ行きたいとこがあんだけど。ゴホービに!」
「どこ?」
ちーんと鼻をかむ私にぴったりと身体をよせて、加瀬くんが耳元でささやく。
「シュクハクシセツ」
「エ・・!?」
「ね? 行っていい? ゴホービちょうだい。オレに」

あ、そう。
私のじゃなかったのね。
加瀬くんのゴホービね。

「行けるワケないじゃん。あんなとこ危険すぎて二度と歩けないよ」

知らなかったとはいえ、イブに堂々とホテル街を歩いてた自分が信じられない。
遠くの街ならいざ知らず、坂川のシュクハクシセツなんて二度とご免だ。

ところが加瀬くんはそーゆうコトをあまり気にしない。
マスクすれば? とか。下向いて歩けば? とか。
信じられないほど雑でテキトーな提案を次々と挙げてくる。

「いやもう、全っっ部ムリ。絶対にイヤ」
「オマエさ、オレにちゃんと感謝してる!? オレがどんだけオマエのためにココロを砕いてやってるかーーー」