春休みに見た数学の問題集。アレについてた大量のバツを思い出して思わずぶるりと背筋が震える。
んだけどオレはすぐにその弱気を改めた。

「いーや、大丈夫。これからキチンと勉強すればなんとかなる」
「そーかな。なるかな??」
「なるわ。オレが絶対になんとかする」

そう宣言した瞬間、オレの腹はキュッとくくられた。
それぞれの希望の進路もオレらの関係も、なにひとつ諦めないし手放さない。
全部、手に入れてやる。

「とにかく小宮山はC大受かれ。オレはA大かB大に行く」

小宮山の受けたいC大は県内の国立大学。A大B大はC大の隣県の国立大だ。
遠恋するなら少しでも近いトコがいい。国立同士なら、小宮山をC大に合格させるのがベストだ。

「んで、受かったらバイトして、週末は会うからな? 小宮山も稼げ」
「で、できるかな? 遠恋・・」

「デキルカナじゃねんだよ、やるんだよ」って言ったら、小宮山の目からポロリとひとつぶ涙がこぼれた。
で、しみじみと言うのだ。「やっぱり、加瀬くんだねえ」って。

この日から、オレは小宮山専属の理数講師になった。