それからも小宮山は、毎日、松ヶ浦の図書館に通っているようだった。
新学期が始まる2日前、製作所を出てから図書館に様子を見に行ってみると、彼女はひとりで2階の自習室にいた。
後ろからそーっと手元をのぞいたら、なんと数学の問題集がひろげてある。

ウソだろ、小宮山が数学・・!!

死ぬほど数学のキライなはずの小宮山が、自分の意志でマジメに数学の勉強をしている。
初めて目にする光景に息を飲むオレ。
と同時に小宮山の問題集の悲惨な出来栄えにも息を飲んだ。

こりゃひでえ。いくらなんでもこれはナイ。

他人事ながら不安になるほどバツばっか。
今までサボりにサボってきたツケが一気に回ってきたってカンジだなって思った途端、オレは彼女にモーレツに申し訳なくなった。
小宮山を甘やかして数プリ写させてたのはオレなのだ。

「うわ、びっくりした」

背後の気配を察知してビクッと肩を震わせた小宮山が、ふりむき様にオレを見上げる。  
「いつからいたの? 全然わかんなかった」
って、オレ見て嬉しそうに笑う小宮山に胸がきゅんと疼く。

ホントはオレ、小宮山連れ出してどっか行きたかった。だけど、オレが誘う前に小宮山につかまっちゃう。
「あ。ねえ、加瀬くん、コレ教えて?」
「どれ?」
「ここからここまで」
って見開きの端から端までを全部ペンでなぞってみせるオレの彼女。
「オマエ、まさか全部わかんないの!?」
「エヘヘ。わかんない」

丁寧に解き方教えてやりながら小宮山の持ってきてる問題集をパラパラめくってみると、なんだか・・結構マジメにやっている。

「春休み毎日ここ来てたの?」
「ウン、そう」

どうやら小宮山は、本気で受験勉強をする気らしい。

***