「なあ、小宮山はくれねーの?」

正体不明のチョコを食いながら、オレは待ちきれず、自分から小宮山にチョコをねだった。
だって絶対にもってきてるハズだから。
オレのためだけに用意された、オレのためのチョコ。

ところが。

「ゴメン、教室に忘れてきちゃった」
「ウソだろ、なんでだよ!?」

「だって、それどころじゃなかったもん」
小宮山が顔を曇らせる。
「彼氏がチョコもらうのがこんなツライって知らなかった。加瀬くん、あんまりモテてほしくない・・」

「!!!」

ションボリうつむく小宮山の姿に、オレは浮かれた。
今までのどのバレンタインよりも。

「大丈夫だぞ。オレ揺らいだりしないし」
「ホント?」
「ホントだって。だーいじょうぶ!」

ところがその後、例のチョコの正体はあっさりと判明するのである。

弁当食って教室に戻ると、翔太がオレをみつけて手招きしてくる。
「なあ、チョコ入れといたのわかった?」
「は?」
「青いやつだよ。見た? あれ、オレから」
「なんだよ、翔太かよ」
毎年いっこももらえねえから、今年は気分だけでもって思ったらしい。所謂、友チョコってやつだ。
見れば、尚も同じの食べてる。

そーっと首を伸ばして、オレはこっそりと小宮山の様子を窺った。
佐々木の席にいる小宮山はーーー

うんうん。たぶんコッチには気づいてない。

「なあ、もしかして小宮山に悪いことした?」
「や、全然」

不安げな翔太に愛想よく微笑んでおく。

ネタバレは、まだしない。
もうちょっと小宮山にヤキモチやかせてからにしよう。