その時いきなり、がったんって電車が大きく揺れて、オレはとっさに空いてる方の手で小宮山の腰を支えた。
そしたらなんだか、その手を外すのが惜しくなる。
揺れなんか一瞬でおさまっちゃってんのに、いつまでも手をひっこめられない。

「うわ、びっくりした。加瀬くん、ありがと」

こっちを振り向く小宮山と、顔傾けて小宮山の顔のぞき込んじゃってるオレと、思いがけずすんげえ近さで視線が絡んだ。
日常じゃちょっと有り得ない距離感に動揺して、小宮山の瞳が揺れる。

それを見た瞬間、オレはアッサリ方針を変えた。
無害で安全なオトコなんて、オレには嬉しくも楽しくもない。
そんなもんはやっぱヤメにする。

「どーいたしまして」
ってニッコリ微笑みながら、引っ込みがつかなくなってた往生際の悪い腕をそのまま小宮山の腰に巻きつけた。

「エ!?? あ、あのさ、これ・・」
オレの突然の暴挙にギョッとして、オロオロと目線だけで何かを訴えかけてくる小宮山に、
「なあ、オレのこともっと意識してよ」
ってささやいてから腕をほどいた。

決めた。
仲良くオトモダチごっこするのはもうやめる。
もっと本気で小宮山の『恋人』になりにいこう。