「加瀬くん、ここにキスしてみてよ」

片側だけ髪を耳にかけて、問題の耳をシッカリ露出する。もちろんハルキくんにキスされたほうだ。
実はこっち側の耳にだけ、加瀬くんは未だに心理的な結界を張り巡らせている。バイトの最終日に春樹くんがとんでもない置き土産をしていって以来、加瀬くんは極力ここには触れようとしない。

「ささ、ドーゾ」
「ーーーウ、ウン」

私が距離を詰めると、加瀬くんの身体がわずかに後ろに傾いだ。
だけどそこは根性で持ちこたえて、加瀬くんがそおっと私の頬に手を伸ばす。
強張った顔つきでギクシャクと顔を寄せる加瀬くん。
一呼吸おいて、加瀬くんの唇がちょこっとだけ私の耳たぶを掠めていった。申し訳程度に。